現場は大勢の「人の力」で成り立っている。だから現場監督や職人さんとのやりとりはできるだけ敬意を持って接するようにしている。礼節をもって接することで、お互いに気持ちよく仕事ができるし、それが結果としてよい仕事につながっていくのが理想だと思う。仕事に感情は持ち込まないほうがよい。
しかしながら、人はそううまくはいかないもので、いいかげんな仕事を目にすれば声を荒げてしまい衝動にも駆られる。そんなときは昔の未熟だったころの自分を思い出して気持ちを落ち着かせる。この仕事をはじめたばかりの頃、現場事務所に寝泊りしながら、朝から晩まで毎日現場に張り付いていた時期があった。若さゆえの過剰な責任感から感情の起伏が激しく、よく現場監督や職人とも衝突した。
そんな経験から、個人的な感情は現場の雰囲気を悪くするだけでなく、誰にもメリットをもたらさないことも次第に理解できるようになった。それ以降は腹の中に何か持っていても、そこはぐっとこらえて冷静にやりとりできる心得のようなものを身に着けた。
いい加減な仕事というのは、気持ちの緩みと想像力のなさに起因する。集中力を欠いていると現場やまわりの人間の士気が落ち、指示の曖昧さが作業のミスにつながってくる。想像力を欠けば、自己中心的な考え方がまわりに及ぼす影響に気がつけず、他の人の作業を無駄にしたり、過失を引き起こす原因にもなる。
それを未然に防ぐためには、やはりはっきりとした意思表示をすることが大切だ。何も言わなくても、こちらの意図を汲み取って理解してくれる人もいるけれど、あまり厳しくないからとつい気を緩めてしまう人がいるのも現実だ。人の気持ちをあてにせず、こちらの意図をしっかり伝えた上で、相手の考えにも耳を傾けることが大切だ。コミュニケーションとはそういうものだと思う。
たまに、うるさい人だと顔をしかめられることもあるけれど、施主の大切な資産を守るために、人にどう思われようとも必要なときは礼節をもって、正しい悪者になろうと思う。