中国から輸入されている建材の中で雲杉(クモスギ)という木材ある。色合いや木目もよく、価格が安いので最近日本では窓枠や押入れなどの部分によく使われる木材だ。私の現場でも造作材の金額を抑えるために雲杉を採用することがある。ただ雲杉が中国からの輸入材であることぐらいは知ってはいたものの、それ以外の知識は特に持ってはいなかった・・。
最近の新聞で雲杉の原産地は中国ではなくチベットであることを知った。雲杉は中国から輸入されてはいるものの、チベットから運んできた木材だという。中国は雲杉を手に入れるためチベットの森林を無制限に伐採し日本などに大量に輸出している。そのためにチベットの森林環境はここ数年で急激に悪化し、一部の森林は再生不可能な状況にまでなりつつある。そのような状況も加わってチベットの中国に対する感情は今や世界が心配する事態へと発展した。日本はある意味でその片棒を担いでいる。この事実を新聞で知ったとき、私にもその事実が重くのしかかった。
無知であるということはときに残念な結果を招く。知っていれさえすれば対応する術はあったかもしれない。問題なのは私たちが自由経済を掲げてあまりにも無意識に自己中心的な立場に身を置いてしまっているということだ。もし改善できる方法があるとすれば、環境をデザインする立場の設計者はまず意識を持って敢えて「使わない」選択をすることも必要だ。
安易な選択を行なうことで世界を危険なことに巻き込んだり、どこかの国の環境を破壊することに加担してしまうような事態は避けたい。環境問題は地球や自然にやさしいというような建前論ではない。限りある資源を使い果たせば、世界はそれらの利権をめぐって必ずまた新たな戦争を引き起こす。そして多くの人間がその犠牲になり命を落とす。悲しいことにいままでの歴史がすでにそれを物語っている。選択の自由は必ずしも人間を豊かにするとは限らない。未来を見据えた正しい選択を意識していくことがこれからモノをつくる人間にとって必要な「眼」であると信じたい。