建築家 白井晟一が設計した「杉浦邸」を拝見する機会をいただきました。
白井晟一は建築を学んできた人間であれば、おそらく知らない人はいないでしょう。
昭和、20世紀を代表する大建築家であり、絵画や哲学の分野から建築に転身した
異色の経歴の持ち主。我々にとってはまさに雲の上の存在、それが白井晟一です。
この世を去られてから30年以上経ちますが、未だにファンも多く、
その経歴と作風から「孤高の建築家」と言われています。
白井晟一の代表作についてはここでは詳しく触れませんが、
「自邸」をはじめ、いくつかのすばらしい住宅も設計されています。
今回、その住宅の1つを見学できる機会があるとは。こんなチャンスは二度とありません。
同業の先輩のからの情報から、急いで申し込みをしたものの、あまりの人気に
もう締め切られたあとでしたが、事務局の方々の配慮により、
見学日を1日増やしていただけたのはとても幸運なことでした。
今回拝見する住宅は白井晟一の作品リストにも登場していない幻とも言うべき住宅です。
施主である杉浦さんは他界され、主人のいなくなったこの家はまもなく取り壊しとなります。
解体までの間、杉浦さんご家族のご厚意で貴重な一般公開が実現したようです。
ご家族の方々や企画をしてくれた事務局の皆様には、本当に感謝です。
路地のようなアプローチ空間、玄関までの導き方が心憎いです。
庭側から建物を見る。深くて低い軒下空間。屋根に樋はなく、板金のシャープな軒ラインが
水平性を強調しています。雨落ちには砂利が敷き詰められ、内部と外部の境界を緩やかに
繋いでいます。
建物のコーナーに配置された窓。高さは1m50cmです。
座の目線で風景を切り取ります。
2階から庭を眺めてみる。窓の前に立ってみると、実は下(庭の方向)を意識した
窓であることがわかります。立った目線では、下の庭が視界に入り、座ってみると
この窓からは空は見えます。巧妙に計算された高さ設計に脱帽です。。
今の住宅にはなかなか見かけない前室空間。天井高さは何と1m80cm。
壁に取り付けられた和紙の照明が天井を照らします。
黒く美しい唐紙が光を反射して幻想的。。
住宅の見せ場の1つはやはり階段です。
手摺のディテールも本当に美しい!
フラッシュをつけての写真でしかご紹介できないのが本当に残念。。
でないと。。暗くて写らないので(笑)
美しいのに手摺としての安定感もあります。
蹴上げと踏み面の寸法もとても緩やかに設計されていました。
おこがましいですが、こんなデザイン、やってみたい。。
濃茶の天井とブルーグレーの内壁、スリットから入る光が、うっすら室内を照らします。
白井晟一の建築全般に言えることですが、内部はとにかく暗いです。
光を絞りこむことで、空間に深い奥行きをもたせています。明るすぎる最近の建築空間には
ない濃密な空気が漂っていました。それは「遠い時間」が見えるという感覚に近いかもしれません。
白井晟一の建築が哲学的といわれる所以なのでしょう。
本当に貴重な体験をすることができました。